過去ブログのキモノトーク(?)再掲、3回目です。2018年6月から7月にかけて、角川シネマ新宿で小津安二郎の映画7本の4Kデジタル修復版が公開されました。それまで全く小津映画を見たこと無かった(!)ので、これはいい機会だワとせっせと通い、7本全部を見ました。
アラフィフでの初鑑賞は、結果どれもすごく面白かったです。あぁ、なんで今まで見なかったんでしょうね〜。度々目に入る小津映画のスチール写真なんかはとても端正で、そこから「折り目正しくて固そう?」ってイメージが先行してしまったというか…なんとなく古臭くて窮屈な世界なんじゃないの?と勝手に思い込んでいたんですね。あーもったいない。
もちろん時代的に古い価値観が多少フォーマットとしてあるけど、描かれる内容はいたって普遍的だし、多くを語りすぎることなく全体的にドライな印象で、共感できる部分がすごく多かったです。そしてそう、端正すぎてむしろ怖いと感じたシーンは映画として見ると本当に美しく、その心地よさに感動しました。
7本の中でとくに好きだったのは「東京物語」、「浮草」、「お茶漬の味」。(あ、でも短期間に集中して見たので「東京物語」以外の「笠智衆&原節子」のものは印象がごっちゃになってしまった…ってのもあるかも。)
この中で着物がたくさん見れる楽しみもあったのが「お茶漬の味」でした。リッチな奥様の着物の日常はちょっとした別世界でわくわく。お嬢様育ちで遊び好き、いつもわがままいっぱいの奥様(木暮実千代)に対して、旦那様(佐分利信)は田舎育ちで質素で穏やか…このちぐはぐな夫婦の物語です。
この奥様、妙子が銀座に行くところから映画は始まります。このとき着ているのは亀甲柄の着物。学生時代の友人、アヤ(淡島千景)の洋装店を訪れるシーンです。この亀甲柄、裾に向かって模様が大きくなっていく、ちょっと奇抜なデザイン。(私には「ハチミツ柄」にしか見えないけど…。)ん?これ反物だとどういう状態でしょう、普通に裁ってこうなるの?
この大胆な柄が、堂々たる雰囲気の木暮実千代には良く似合ってます。妙子はショーウィンドウの上の商品(香水瓶?)をパッと手に取って、売り子に「これちょうだい、包んどいて」と。この立居振る舞いと言い方だけで、彼女の生活や人となりが分るのです。
銀座から戻り、家では格子柄の着物。カジュアルな柄にホッとするけど、帯がまた素敵なんです。デザイン化された植物のような柄。えー、私だったらこれで堂々とお出かけしちゃうなぁ。
「今日は帝劇、明日は三越」(この例えも古いですね)を地で行く妙子。アヤや姪の節子(津馬恵子)たちとの修善寺旅行から帰るとすぐに野球観戦へ。後楽園球場のナイターにはこんな涼しげでモダンな着物で。ナイターにもおしゃれ着物…すごいなぁ。お出かけの時はいつも手袋をしていますが、この時は黒いレースのもので、それも素敵なアクセントになっていました。
自宅に戻って着替えずに姪の節子にお見合いを勧めるシーン。ここで妙子の部屋が映ります。大きな花柄の壁紙に、やはり花柄のソファー一式。うわー、デコラティブ。昭和20年代でもこんな部屋のある家があったのか…(というか、この時代の日本映画ではしばしば過剰に洋風の家が登場しますが、これは現実には無い豊かさへの憧れの一端だったのかな)ヨーロッパ調にまとめられた部屋には東郷青児(ふう?)の絵も。何かあるとここで煙草を吸ったり雑誌を見たり、この部屋は妙子が逃げ込む場所でもあり、いつまでも娘時代のわがままを通したい妙子の象徴のように見えます。
節子のお見合いに立会う時や、一等の展望車で旅行に行く時には華やかな訪問着。タイミング悪く出かけてしまった勝手をアヤに責められて、ふてくされながら手袋を脱ぐシーンも印象的でした。
木暮実千代という女優も、古い映画を見るようになってから知りました。(子供のころ、母の婦人雑誌で見たような気も)最初に見たのは「香港の夜」のヒロインの母親(中年婦人)役でした。すごい美人ってわけじゃないけど、艶っぽくて、どっしりした存在感がありますね。若い時にはどんな感じだったんだろ?と思っていたら、先日見た「酔いどれ天使」ではヤクザの親分の情婦役で登場していました。ビッチな役どころがピッタリで、毛皮のコートもよくお似合いでした。(本領発揮?)
ラストシーン手前で、ちぐはぐな結婚生活から一変、生まれ変わったような心境の妙子が家で楽しげにアヤたちとおしゃべりをするシーンでは、着物もくつろいだ絣。地味な絣柄も何となく華やいで見えるのがさすがの女優力ですね。
本筋とはあまり関係無いけど、この「友人+姪」のメンバーでおしゃべりしたり、出かけたりする何気ないシーンの数々がすごく楽しくて、映画に華を添えてます。「ジャンギャバン?ああいうのが好きなの?」なんてセリフとか、修善寺温泉の旅行なんて女学生そのもの。こういうの見ると、女子会は今も昔も変わらないんだな~とほのぼのしました。あっ、修善寺の旅館の浴衣がこんなひょうたん柄でこれもかわいかったです。節子を演じた初々しい津馬恵子。
津島恵子が全編とってもチャーミング!のびのび明るいお嬢さん役がすごく良いアクセントに思えました。妙子の夫婦間がどんどん冷えきって行くのと同時進行で節子にも結婚問題が持ち上がりますが、「お見合い結婚なんてイヤッ」と自分の幸せを一生懸命探す姿がとても良かったです。
鶴田浩二演じる「のんちゃん」と、ラーメンを食べながらお見合いについて語り合うシーンなんて、2人ともほんとかわいい。ここ大好きです。(ラーメン屋のBGMもまたセンスいい!)のんちゃんが気負い無く語る「大きな神様から見たら(お見合いで結婚しようが、恋愛結婚だろうが)どっちも同じ、ボクは簡単主義だなァ」の一連のセリフにも膝を打ちました。
あちこち話が飛んでしましましたが、着物に戻ると…
日常的に着物を着ていた時代には、普段着とよそ行きの区別が分りやすくて、なるほどな〜って思いました。私、理屈では分っても、どうも着物の格の扱い(正統派の)が腑に落ちないことがたびたびあります。
それは、今は「着物」ってだけで、すでによそ行きの感じがあるから。昔の(本来の)定義よりどんな着物でもワンランク格が上みたいな感覚になります。今は木綿の着物でもコーディネート次第でお出かけ着だし。(私もそうです。それで劇場や気取ったレストランなんかには行かないにしても…)
でも、それでいいんじゃないかなと昔の着こなしを見て改めて思いました。だって、映画の中ではお出かけの洋服はワンピースだけど、今はジーンズで銀座歩くの普通だもんね。フォーマルな場じゃなければ、好きなように着物を着れる今は幸せ、と思います。私は「固く考えすぎず、好きなスタイルでどんどん着たほうがいいよね主義」だわァ。(のんちゃん調で)
そして、小津映画との出会いがとても幸せな形だったことにも感謝。いいタイミングで見れました。