2024年7月

  • 高峰秀子と草笛光子の着物姿@「放浪記」

    過去のブログは閉鎖しましたが、そこに書いていた「映画の中の着物」の記事だけ、こちらにぽつぽつ再録していきます。着物熱が沸騰していた時期に書いたので、カッカしてます(笑)。合わせて、張り切ってイラストも描いたのでこちらも見ていただけたら嬉しいです。

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    文芸作品の誉れ高い「放浪記」…と、ぼんやり知ってはいましたが、林芙美子の原作を読んだこともなければ、成瀬巳喜男監督の映画を意識して見たこともない私。

    それでもたまたま、これも池袋の新文芸座で観たらとても面白かった。林芙美子の生き様が強烈で、それを演じる高峰秀子に圧倒されました。見どころがたくさんある名作なのでしょうが、ここでは着物のことを。

    まぁ、高峰秀子と草笛光子の着物合戦が鮮やかで。2人の全く違う装いがまた見たくてDVDで見直してしまいました。今まで昭和の名作と言われる映画にあまり興味がなかったのに、急にがぜん面白く感じるようになった理由のひとつが「着物」なのです。自分が着るようになったら、もう、いろんな着物が見たくてしょうがない。で、この映画の舞台は昭和初期なので、当然普段着もよそ行きも様々な着物のオンパレードです。こりゃ楽しい。

    高峰秀子演じる林芙美子は、貧乏のどん底で女工やカフェの女給をしながら詩や童話の創作をし続けている、絵に描いたような苦境の作家。これでもか!というほど田舎臭くて貧乏で…見てるこっちが暗い気持ちになるほど。

    それに対して草笛光子演じる日夏京子は、同じく詩人だけど堂々たる美人として描かれています。しかもリッチで余裕のある立居振る舞い。

    いっつもブスッとした仏頂面で猫背。全身で非美人オーラ前全開の芙美子と、シュッとした美人の京子。この対比がそのまま2人の着姿に現れています。芙美子はたいてい絣をグズグズに来崩していて、京子は華やかな小紋をピシッと、それこそ着付けの教科書みたいに美しく身にまとっています。スラリとした草笛光子のスタイルの良さも、もちろん功を奏しているんですが。

    男の部屋で鉢合わせするところから、2人の関係は始まります。先に部屋に居た京子は、めいっぱいオシャレしていて白黒の画面からでも艶やかさが伝わるようです。大胆な波柄の羽織がとくに素敵。

    いっぽう、スキ焼き屋のバイトから帰って来た芙美子は日本髪を結っていて、これがまた輪をかけて田舎臭くブスに見せてる(本当にブスに見えるのがさすが)。羽織もなんか半纏っぽくて垢抜けない、あぁ〜残念…

    ほどなく2人は詩人同士として、芙美子が働くカフェで再会。女給の芙美子の白いエプロン姿は森光子を彷彿と…いや、実際の舞台を見たことないけど、こんな出立ちでお盆持って踊ってるのをテレビで度々見かけました。京子は幾何学的な花柄の小紋に、竹が描かれた帯。この組み合わせもかっこいいなー。「2人で詩の雑誌を作ろう!」と盛り上がります。(余談ですがここで登場する詩人、白坂五郎役の伊藤雄之助が好きでした。非二枚目枠だけど。)

    やがて小説で競い合うことになる2人。ライバルとしてバチッと視線を合わせるシーンです。座る時もクシャッと年寄りみたいな姿勢の芙美子。

    高峰秀子のエッセイ集「忍ばずの女」を読んだら、役作りで姿勢を研究するときは整形外科医に教えを乞うことにしてる、と綴られていました。私は高峰秀子主演の映画はずいぶん前に「二十四の瞳」を見ただけ。あの若い先生のイメージそのままに、たおやかでなんとなく苦労知らずの女優さんというイメージを勝手に抱いていましたが、文章の端々から演じることに命がけな女優魂が伝わってきて驚きました。「放浪記」の時もさもありなん。

    そして書きあがった小説を京子が芙美子に預けに来ます。総絞りの着物でいつも以上にゴージャスな京子と、庭でタスキがけで洗濯をしている芙美子。これから婚約者の両親に会いに行くところ、と告げる京子。以前「あんなのが欲しい」と芙美子が憧れていたショールも持っている。満たされてるなぁ〜…夫ともうまく行かない芙美子とは何から何まで違う。

    ラスト近く、2人が顔を合わせる最後のシーン。京子はよろけ縞の夏着物に鉄線柄の帯で、いい女ムードたっぷり。私はこれが京子に一番似合っていると思いました。ハッキリした目鼻立ちで、男顔の草笛光子には大胆な柄がピッタリ、素敵に映えますねぇ。芙美子はダラッとした浴衣姿、相変わらず帯も適当にグルグルッと巻いてる感じ。

    最初から最後まで芙美子はふてぶてしくて図太くて…一筋縄では行かないアクの強い作家像が見事に描かれていました。「忍ばずの女」によれば、着物やヘアスタイルにメイクなど全て、高峰秀子自身が林芙美子をどう演じるかを考えて決めたそう。終始、書くことと恋愛に入れあげてる姿の鮮烈さはそこから生まれていたんですね。

    おまけに。「この映画の中からどれか一着、貰えるとしたらどれ?」と聞かれたら…そりゃ芙美子が作家として大成したラストシーンで着てた結城紬だよ〜と答えますが、これじゃなかったら、貧しい時代の絣の着物がいいな。あ、と思う魅力的な柄がたびたび登場しました。合わせる帯を工夫して、こんなのをしゃきっと着てみたい。普段着の着物の織り模様の美しさに、とても惹かれます。

  • 《 お仕事アーカイブ #3 》 オリジナルカレンダー

    お仕事…というと語弊があるのですが。こちらは、2020年新春にご年始がわりにお配りしたカレンダーです。オリジナルの絵をリソグラフ(ガリ版と同じ方法のデジタル印刷)で印刷しました。前回、「iPadだと気負いなく描ける」という話をしたので、その延長をもう少し。

    こちらの絵は、もともとラフスケッチとして描いたものでした。
    トランジスタプレスの佐藤由美子さんが出版を予定していた「グーテンベルクの夢」という本の挿絵として、雨のニューヨークの風景を1枚描くことになっており、そのために3枚のラフスケッチを描きました。これは選ばれなかった2枚のうちの1枚のラフスケッチです。

    鉛筆でざっと描いただけのラフですが、佐藤さんはこれを見て「田上さんの鉛筆のラフっていいですよね」と、採用されなかったラフ2枚も本(出版前の試作本)の中に掲載してくれました。

    私には「本番として仕上げたもの以外をおおっぴらに見せるのは恥ずかしい」という思いがあるのですが、そういえば、以前も別のデザイナーさんから「鉛筆ラフもいい」と言われたっけ…と思い出し、恐る恐る「たまにはこういうのも!」と作ったのがこちら、というわけです。

    B5サイズくらいのラフを、A3まで拡大すると、鉛筆の線の勢いが際立ってなかなか面白い仕上がりになりました。リソグラフは色が使えるとのこと、せっかくなのでスミ線と同じ線を黄色にした版も作り、少しずらして印刷しました。

    鉛筆で本番を描くこともありますが「これが最終仕上がり」と思うと、どうしても力が入りがち…その反面、ラフは当然ですが、線自体に失敗も成功もないのでその点は気楽です。なんの気負いもなくざざっと描いた線が気持ちいい。

    本番でこんなふうに描くシリーズもやってみたいな…というか、いつかは本番もラフも下書きも、区別なくなるのが理想なのかもしれません。

  • 《 お仕事アーカイブ #2 》 ドゥ マゴ パリ カフェメニュー(ブックレット)

    前回に続きメニューの仕事の紹介です。
    こちらは2021年の「Bunkamura ドゥマゴパリ祭」に合わせて制作されたブックレットです。

    前回紹介したモスバーガーの仕事から20年。画材の幅が広がり、こちらのイラストは全てiPadで描きました。

    クライアントさんからの要望としては、細かな部分までリアルに伝えるというよりはイメージ的なもののほうが良いとのこと。オシャレな雰囲気も出したいですね。ざっくりとラフな感じで仕上げることになりました。


    手順としては、まずカフェで実際のお料理(フードと言うほうが一般的でしょうか)の写真を撮影させてもらい、それをもとにイラストを描きました。(料理の姿カタチや質感をより実感を持って把握するために、他の一般的なステーキやサラダなどの写真も参考にしました。)
    
ラフスケッチ、下書きから本番まで、ほぼiPadひとつで進めました。ちなみに、撮影させてもらった食事は全部、立ち会ってくれたクライアントさんと分けっこしながらとても美味しくいただきました。

    

iPadで描くといいことのひとつが、すごくラクに描けるということです…あ、この「ラク」というのはもちろん手抜きという意味ではなく、気分が楽でリラックスして描けるという意味です。失敗してもやり直しが簡単ですからね。お皿の丸い線をグルッと思い切って描けるのはiPadならではです。丸い線を描くのって私は苦手で、筆だとどうしても線が震えます(それが良い、というケースもありますが)。
    やり直しがきくと言っても、無限に直してるとだんだん仕上がりイメージがぼんやりしてしまうので、そこはしゃきっと。数回描いてその中でいちばん良いのを採用するようにしています。

    紙に水彩で描く場合(透明水彩を使い、あまり重ね塗りをしない描き方の場合)、絵の具のにじみや重なり具合は完全にはコントロールできません。もちろん、だからこその魅力は大きいし、偶然の要素も含めた仕上がりを優先する仕事もあります。(この場合も何枚か描いて良いのを選ぶことが多いです)
    ただ、このメニューに関しては、iPadでざくざく描くほうがより自由で印象も強いものに仕上げることができると考えました。

    このワインなど、かなりざっくりと描いています。ワインは必須オーダーではなく、「あれば楽しいかも」と打ち合わせの時に話をしたくらいのものでした。それも気負いなく描けて採用され、ブックレット全体がとても良い仕上がりになりました。クライアントさんからも喜んでいただけ、評判が良いと伺い嬉しかったです。

    カフェメニュー(ブックレット)にも掲載されているカフェのテラスのイラストは販促用のトートバッグにもなりました。グリーンの色の部分は、私がグレーで塗った部分を、ドゥマゴオリジナルのグリーンをデザイナーさんが色指定しました。こちらのトートバッグも好評で、パリ祭の後、秋のワインイベントの際に増刷されました。

    ドゥ マゴ パリのオープンは1987年。「パリ本店以外の初の海外1号店!」と、オープン時の華やかな評判はよく覚えています。雑誌「オリーブ」の表紙にもなりましたっけ。若いころは背伸びしてお茶しに行く場所でした。Bunkamura内の映画館「ル・シネマ」や美術館「ザ・ミュージアム」を訪れた後は「ちょっと贅沢してドゥマゴでお茶しようかな」と立ち寄ることもありました。鑑賞後の余韻とパリに憧れる気持ちが相まったときめきを思い出します。

    そのBunkamuraも2023年に現在の場所はいったんクローズになりました。これから先、あのパラソルの下でくつろぐ都会のオアシスが同じ形で登場することは無いのでしょうか…。寂しいけれど、その姿を描く仕事ができたことはとても幸せでした。

    ドゥ マゴ パリは場所を変え現在は「Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下」内で営業中とのことです。

  • 《 お仕事アーカイブ #1 》モスバーガー トレーマット

    ブログが新しくなった機会に、これまでの仕事のことも少しずつ書いていこうと思います。

    ホームページに載せる画像を整理しながら「そういえば、この仕事の時は…」と思い出しつつ「ひとつひとつの仕事のこと、これまで具体的に書いたことってなかったな」と。
    こちらの記事で、私がどのように制作したかを知っていただく一助になれば幸いです。

    1回目は「モスバーガー トレーマット」です。


    こちらはイラストコンペ「ザ・チョイス」に入選した私のイラストを見てくださった制作会社の方から依頼をいただきました。
    「ザ・チョイス」は雑誌「イラストレーション」主催の誌上イラストコンペ。イラストレーターの登竜門的な存在であり、たびたび挑戦するもなかなか入選に辿り着けない数年を経てやっと入選したのが2000年のことです。その時の入選作がこちら。藤田新策さんの審査の回でした。


    ハワイで撮った写真をもとに風景画を描いて個展(Holiday in Hawaii)を開催した直後で、個展のために描いた絵をそのまま応募しました。風景画をまとめて描いたのはこの個展が初めてで、それが思いのほか、自由に好きに描けたので「この絵ならもしかして」と手応えを感じつつ応募したことを覚えています。

    さて、モスバーガーの仕事。のびのびと好きに描いた絵が入選して、それが仕事にも繋がった!というのは想像を超えたとても大きな喜びで、それまでもイラストの仕事はしていたのですが、このとき「ようやくスタートラインに立てたのかも」という気持ちになりました。そんなわけで、これはとくに忘れられない仕事なのです。

    面白いのが、サラダやゼリーを描くきっかけとなった入選作に特に食べ物など描いていないところです。デザイナーさんからは「あの絵のような爽やかさが欲しいです」とリクエストをいただきましたっけ。夏らしさと、爽やかさ…それを感じていただけての依頼とは嬉しい限りです。しかし、改めて思えば、デザイナーさんも勇気がいったことと思います。仕上がりの具体的なイメージは無いうえでの依頼なのですから。

    コンペ入選作はキャンバスにアクリルガッシュで比較的こってりと描いたのですが、メニューは水彩でさらりと描いています。画材や仕上がりイメージについても、ラフスケッチの段階でデザイナーさんと共有し、やりとりをしながら進めました。

    さらりと描きすぎると、伝えたいディティール(コーンフレークやフルーツ、チキンなど食材の質感)が伝わらないので、水彩で描いた上から、ところどころ色鉛筆で細かな陰影やタッチをつけました。「爽やか、涼やか」と同時に「おいしそう!」なのも、言うまでもなく大事ですものね。

    下地になっているスケッチブック、フードはひとつひとつ別々に描き、原画をそのまま納品し、スケッチブック上のイラストや文字のレイアウトはすべてデザイナーさんにお任せしました。スケッチブックのブルーの影などけっこう繊細だったのですが、これもちゃんと再現されていて、仕上がりの実物もとてもきれいでした。(ちなみに描き文字は私のものではありません。涼やかな文字ですね。)

    モスバーガーのマットは目にしていただく機会も多かったため、知人から「見たよ」と言ってもらうことも多く、また、この仕事をきっかけに「食材、料理、メニュー」などの仕事もたびたびいただくようになりました。

    私は食べることが大好きなので、食事にまつわる仕事は楽しく、得意な分野のひとつです。
    実物に忠実に、そして実物以上に…と言いますか、写真には無い表現がプラスできるのもイラストならではの魅力だと思っています。それは食材やメニューが持つ雰囲気(この場合は爽やかさ、涼しさ)や美しさ、おいしさなど。「つるん」や「サクサク」「ふわふわ」などをリアルにイメージしながら描くと、それが美味しい要素として絵に反映される…と信じています。

    そしてこちらの仕事から20年以上が経った今、メニューイラストの画材はiPadを併用することも多くなりました。より細かいタッチもつけることができるようになりましたが、基本はやはり手描きです。100%アナログ以上にアナログらしい魅力や効果が出るように心がけつつ、お腹を空かせながら描いています。