さて、前々回のブログで「久保田麻琴を聴いていた時期と重なる」と書いた個展のことを、今回は紹介します。

2000年に高田馬場のBen’s Cafeで開催した”Holiday in Hawaii”という個展。もう20年以上前なんて、改めてびっくりですが…この個展がまとまった数の風景を描くきっかけとなり、その後のイラストレーターとしての仕事につながっていったので、自分の原点だと思っています。
*個展の絵は、ギャラリーページからご覧ください →【オリジナルイラスト】”Holiday in Hawaii”
この個展の前は「なんとかイラストが仕事になるように!」との一心で、人物イラストを試行錯誤で描いていました。「仕事になりやすいのは人物イラストだから、これがうまく描けなきゃダメだ」と思ってたんですよね。スタイリッシュ(…は苦手だけど、それを目指して)な女性イラストを描いて、女性雑誌に売り込みに行ったりしていました。でも私には「おしゃれ」なイラストはとても難しい…無理を重ねて描いても、「これこれ!私の絵、見て見て!」というところまでいかない。うー、せっかく描くならもっと自分らしい絵が描きたいのに…と、長い間モヤモヤしていました。
そんな時に、友人が個展をするというので訪れたのがBen’s Cafeでした。店名どおりニューヨーク出身のBenが経営するそのカフェはすごく居心地が良く、いっぺんで気に入りました。ブルックリンのカフェみたい!外国の匂いが大好きな私はワクワクしてしまうような、ざっくりとおおらかでオープンな雰囲気。後で知ったけど、カフェは詩のリーディングイベントなども開催する「場」でもありました。

友人ののびのびした画風ともよく合っていて「ここ、すごくいいね」と話を聞くと、展示するカフェの壁は無料で貸してくれるとのこと。これはいい機会かも!と、友人を介してギャラリーの担当の人に会い、とんとん拍子で私もそこで個展をやらせてもらうことになりました。ただ、けっこうな急展開で、個展準備期間は2ヶ月くらいしかありませんでした。
そんな短い期間で、方向性も何も決まってないのに大丈夫?いや、その時は不思議とあまり心配にはならず、とにかく新しいことをやってみたいという気持ちが勝ちました。で、何を描こうかな?と考えていたときに、ふと別の友人が「前、ハワイの写真見せてもらったよね、あれを描いたら?」と、すごく気楽に(他人事という感じでふわーっと・笑。それがよかった)言ってくれ、それが引き金となりました。あぁ、風景画か…うん、いいかも!
ハワイに行ったのは、その時から遡ることさらに4年前。まさか絵に描くことになるなんて夢にも思わず、テキトーに目につく風景を撮った写真があったのです。ハワイはその時が初訪問でした。ヨーロッパ贔屓のオリーブ少女くずれ(?)だった私は「ハワイなんて」とちょっとバカにしつつも友人たちとワイワイ訪れたのですが…すみません、ハワイのすべてがショックを受けるほど琴線に触れました。甘くてノスタルジックな空気と、風と、乾いた風景、それが明るい茶色のフィルターを通して見るような独特の色に感じられ、とにかく心地よかった。
なので「ハワイの絵を描いたら?」の一言に、ぱーっと目の前が開けたように感じました。おもしろそう、きっといい絵が描けそう、と確信が持てたのです。
試しに…と、それまで使ったことのないアクリルガッシュでキャンバスに描いてみると、思ってもみなかったような、自分でも好きな絵が描けました。筆を動かしたら描けてしまったという感じ。
まず、キャンバスにアクリルガッシュを塗る、それ自体が「絵を描いてる」という感覚で気持ち良かったです。キャンバスに絵の具が乗っていく感覚、筆の感覚が楽しい。あと、アクリルガッシュの特性として、いくらでも上から塗り重ねて修正が効く、というのも性にあってました。私は失敗にビビるので「いくらでも描きなおせる」という気楽さが最高でした。最初の絵を仕上げて「えぇ?描けちゃった!絵って不思議、面白いな〜」と、まさにキツネにつままれたような感覚でした。だって別段、こういう絵を描こうと研究したり試作を重ねたりしてたわけじゃなかったんですから。(この最初の絵は、トップ写真のDMの絵です)

その後は、ひたすらこの楽しさを持続させることに注力しました。その心持ちの基盤となったのが「ギャラリー場所代がタダ」ということです。はい、ここでも「気楽さ」。これに助けられるんですねぇ、私は(と、いまさら再発見)。肩の力を抜いて取り組めたのが本当に有り難かったです。この「どうせタダだし、誰も見にこないし」という前提のおかげで終始楽しく描けました。「誰も見にこない」というのは、ちゃんとしたギャラリーじゃない(って言いかたはBen’s Cafeに失礼ですね、スミマセン)から、仕事関係の人に必死にプロモーションとかしなくてもいい、って意味です。「ここで展示したところで、誰も何も私に期待してないし」っていう…「戦う場所じゃないんだから好きに遊べばいい」って感覚でした。
なので、仕事を一切意識せず「好きなものを好きに描こう」と、それだけを思って進めました。「枚数も揃わなくてもいいや」とも。だから、描いていてちょっとでも苦痛になったらすぐ筆を止めよう、と。でもこれも幸せな逆効果で、どんどん描けたんですよね。

結局、全部で20枚近い絵を描きました。写真にあるように、大判(850㎜X660㎜)の額に合わせた大きい絵も何枚か仕上げました。これは厚紙にジェッソを塗ったものに描きました。広い部屋も無かったので、キッチンの床に新聞紙を広げて、そこに直接紙を置いて描いてました。これも楽しかったなぁ。「広いアトリエっていいな」と妄想することもあるけど、この原体験があるから「ま、どこでも絵は描けるサ」って基本、思ってます。大きい絵以外はF6〜F8くらいのサイズのキャンバスがメイン。今でもこのサイズが変わらずやっぱり描きやすいです。
自分で言うのもなんですが、よく描きましたね。当時はギャラリーで働いてもいたし、どう時間をやりくりしたんでしょう…若かったから(←それなりに)できた、と言えばそれまでですが。思い返すとあんなふうに絵を描けた2ヶ月間は奇跡のように感じられます。
そして、そこで描いた絵が雑誌「イラストレーション」の公募コンペ「ザ・チョイス」で入賞して、仕事のきっかけとなった話は、前にこのブログにも書きました。
さて、このBen’s Cafe。残念なことに、もう何年も前に建物自体も無くなってしまいました。ついつい思い出話、ノスタルジックな昔話になってきちゃいましたが…「またあんなふうに絵が描けたら、もうそれだけで何もいらない!」と、最近たびたび思うのです、ちょっと本気で。

↑これは、個展に来てくれた人へのお礼状として作ったポストカード。Ben’sCafeのテラスから見るカフェ向かいの家の門と、マンションです。個展期間中はカフェに入り浸り、この風景が友達みたいになりました。たしか、この家もマンションも、今はもう無い…と思います。
